ロリポップキャンディ♪
あたし、楠木 知佳(くすのき ちか) 中学二年生。
今ね、午後9時20分。
特別遅い時間でもないんだけど・・・これがお家ならね。
「お嬢ちゃんたち、中学生?高校生?まだ学生だろ。こんな遅くに出歩いて・・・おじさんあまり感心しないなぁ」
「え・・えっと・・・あたしたち・・・」
いきなりタクシーの運転手さんにお説教みたいに言われて、思わず動揺しちゃった。
だってお友達だけでタクシーに乗るのなんて、初めてなんだもん。
「高校生だよ!遅くなったからタクシー乗ってんじゃん」
うわっ、ためらいもなくサバ読めるって、さすが怜奈(れな)
「仕方ないよねぇ、コンサート終るのが遅いんだもん」
慌てたところなんて見たことないってくらいに、あたしたち三人の中で一番冷静な亜子(あこ)
「はぁ〜・・・おじさんの娘なら、間違いなくお仕置きだな。
はい、ありがとうございます、お客様。順に家までの道をご説明下さい」
運転手さんは盛大なため息をついて愚痴を零すと、諦めたように本来の業務口調に戻ってあたしたちを送り届けてくれた。
危ないことなんて、な〜んにもなかった!
事の発端は半年前。
隣の市の記念ホールで、今をときめくアイドルグループSPK100のコンサートが開催されることになったの。
あたしたち三人ともファンクラブに入っている身としては、行きたい!って思うのは当然でしょ?
何度も行きたいってお願いしたのに、お友達だけでコンサートなんて絶対ダメだって許してくれないの。
みんなお友達同士で行ってるのにな。
行きたいなぁ・・・。
行きたい、行きたい・・・行きたーい!ってなって、それなら叱られるのを覚悟で行っちゃう?
行っちゃえ!行っちゃえ!
で、結局チケット申し込んじゃった。
コンサート当日は怜奈たちとお買い物ってことにして、お昼頃お家を出発。
午後6時の開演直前に、ちょっと遅くなるからって連絡を入れておくの。
「早く帰って来なさい」
「はぁい」
三人とも良い子のお返事をした後、プチンと携帯の電源を切って回れ右でコンサート会場へ。
もう気持ちはSPK100にMAX!
ステージは会場が揺れちゃうくらい半端ないテンション!
夢のような3時間はあっという間に終って、大急ぎで乗ったタクシーの車中からお家に連絡。
何してるの!こんな時間まで!って、そりゃすごい剣幕だったけど。
少しくらい多めに叱られても、平気!
この日のために、半年も前から楽しみにしてたんだもん!
怜奈も亜子も、ママたちすごく怒ってるけど謝り倒せば大丈夫だって、二人とも余裕。
あたしも、パパは出張でいないし、お兄ちゃんだけだもん。
お兄ちゃんは優しいの。あ、さすがにさっき連絡した時はちょっと怖かったけど。
SPK100は中・高生中心の100人のグループで、あたしたちと同じくらいの年の子たちもいっぱい観に来てる。
お兄ちゃん大学生のくせに、そういうの全然知らないんだもん。わからんちんなの。
あたしのお家は、パパとお兄ちゃんとあたしの三人家族。
パパは普通のサラリーマン。月に2〜3回、出張あり。
お兄ちゃんは21歳。大学三年生。
ママはあたしが小さな頃に病気で亡くなって、それ以来パパとお兄ちゃんがママの代わりなの。
毎日のご飯もお洗濯も、学校のお弁当も髪を結ってくれるのも、全部パパとお兄ちゃん。
怜奈や亜子から言わせれば、あたしはすっごく甘やかされてるんだって。
確かにパパもお兄ちゃんも過保護気味なとこはあるけど、ワガママが過ぎたり心配かけたりしたときにはきっちり叱られちゃう。
叱られるのは、パパからのお尻ペンペン。
お兄ちゃんはお小言やお説教だけだけど、パパはお尻ペンペンのお仕置き。
それこそ怜奈や亜子には言えないけど、パパのオシオキは厳しいんだから!
さっきのタクシーの運転手さんが「自分の娘ならお仕置きだ」なんて言うから、思い出しちゃった。
でもね♪ 中学生になって生理が始まった頃くらいから、お仕置きがなくなったの。
たぶんパパは、あたしがオトナになったことを認めてくれたんだと思う。
どんなに叱られてもお説教だけ。
あたし的には、万々歳♪
だから行っちゃったんだもん♪♪
「ただいまぁ〜」
「知佳!」
ひえ〜っ!お兄ちゃん、血相変えて玄関に仁王立ち・・・。
やばい、やばい。
そんな時は先手必勝で抱きついて、思いっきり甘えちゃうの。
「お兄ちゃ〜ん、遅くなってごめんなさぁい」
「知・・・」
「ホントごめんなさい!次から絶対!絶対!遅くならないしぃ、携帯も電源切っとかないしぃ・・・ごめんなさぁい」
ぎゅーってお兄ちゃんの胸に顔をつけて、目を合わさないようにして言う隙を与えないの。
「はぁ〜・・・お前はなぁ・・・」
はぁ〜?どっかで聞いたようなため息?タクシーの運転手さん・・・な、わけないよね。
ひょいってお兄ちゃんの胸から顔を上げて、首を45度に曲げると・・・
―――パパ!!?
リビングのソファにどっかり腰を下ろしたパパの前に、罪人のように床に座らされているあたし・・・。
お兄ちゃんは後ろのソファに座って、何だっけ・・・裁判のバイシンインみたい。
「知佳、どういうことだ?」
「え〜・・・えっとぉ・・・パパ、出張中じゃなかったのぉ?」
「・・・お兄ちゃんから、知佳が帰ってこない、連絡が取れないって電話があったんだよ」
連絡取れなかったのって、ほんのちょっとの間だけだよ。
お兄ちゃんてば、出張中のパパに言いつけるなんて酷〜い!
「知佳、もう一度聞くよ。どういうことだ?」
「ん・とね・・・怜奈たちとお買い物?・・してて、つい夢中になっちゃってぇ・・・」
「そうみたいだね」
お兄ちゃんの後ろからの同意の声に、やった、助け舟!と思ったら、あたしのお買い物袋の中身を広げてる!
「やだ!やめてよ!お兄ちゃん!そんなことして、プライバシーの侵害なんだから!」
「SPK100??・・・ストラップにフェイスタオル、キャンディ、ポーチ、パンフ・・・。
父さん、知佳はどうやらアイドルグループのコンサートに行ってたみたいですね」
「怜奈ちゃんたちとか・・・」
あっさりバレちゃった。
たっぷりお説教されて、お小遣いも当分カットだろうなって、ここまでは予定の範囲内・・・だったけど!!
「やっ・・・!!やだぁ!いやあ!パパッ!!」
これって、予定外――!!?
パパのお膝で、完璧なお仕置き体勢。
「知佳も中学生になったから、暫く様子を見ていたんだけどね」
ええっ!?様子見だけ??なくなったんじゃないのぉ〜!?
「パパッ!!知佳、もう子供じゃないよ!生理もあるもん!オトナだよ!」
生理の言葉に、パパの動作が止まった。
「知佳の言う通りだ。生理があるということは、赤ちゃんだって産める大人の身体なんだよ。
だから余計自分の行動には気を付けなきゃいけないだろ」
「パパ・・・」
やっぱりパパは、あたしのことオトナだって認めてくれてたんだ・・・と、思った矢先。
「様子なんて見てる場合じゃなかった。パパ、反省したからね。
身体が大人でも、知佳はまだまだお仕置きの必要な子供だ」
えっ・・・?それって、お仕置き復活宣言!?とか、動揺している間にパパの動作も復活!?
スカートが捲くられて、パパの手があたしの下着に!!
「・・・知佳、何でこんなものはいてるの」
「・・・生理中だから」
「こんな締め付けのきついガードルは身体に良くないね、生理中なら尚更だ」
ぐいーって引っ張られて、スッポンッ!
一気に抜き取られちゃった。
本当はウエストをスリムに見せるためなんだけど。
だって生理中って言えば、お仕置きなくなるかなぁって思ったんだもん。
パパは下着メーカーの営業マンなの。
生理のことだって学校で習う以上にちゃんと教えてくれたし。
生理用のショーツも機能的でお洒落なのを選んでくれて、レディスランジェリーのエキスパートなんだよねぇ・・・。
通用するわけなかった。
「パパに、生理ショーツと普通ショーツの見分けがつかないとでも思うの」
いちご柄の超可愛いショーツは、パパの会社の製品。
あたしのお尻が、はっきりウソですって証明してる。
「こらっ!悪い子のお尻!!」
ばち〜ん!!
「やああぁぁんっ・・!パパぁ!」
お尻の真ん中が、痛いぃ・・・。
「ウソばっかりついて!」
ばちん!ばちん!
「あんっ!いたっ・・・!」
「何千人何万人も集まるようなところに、子供だけで行くなんて!しかもこんな遅くに!」
ばちん!ばちん!
ばっちん!!ばっちん!!
「やっ!・・いったぁい!パパ!あ・ぁんっ!」
うえぇっ・・・お尻、全部痛いぃ!!
ポロポロと涙の零れたあたしを見て、パパは手を止めてくれた。
そして、
「お尻痛いね。知佳、何でお尻痛くされてるの」
パパは熱くなったあたしのお尻を、いちごショーツの上から優しく撫でながら問いかけてきた。
「・・ぐすん・・ウソついてぇ・・・コンサート行って、お兄ちゃんに心配かけたから・・・」
「知佳は、叱られるってわかって行ったんだよね」
「・・・うん」
「わかっていながら行ったってことは、どうせお説教くらいって思ってたってことだ。
お説教だけじゃ、反省出来ないってことでしょ!」
パパはあたしの思ってることなんて、すっかりお見通しだった。
最初から素直に謝っておけばよかったよぉ・・・。
「パパぁ、ごめんなさい」
「やっとごめんなさいが出たね。素直なごめんなさいが出たところから、反省は始まるんだよ」
いちごショーツを太もも付け根辺りに下げられて・・・?
前はもっとしっかり、脱げちゃうくらいにまで下げられてたけど・・・ちょっとだけオトナ扱い?
そんなオトナ扱い、いらないからぁ!
焦る間もなくぷりんと丸出しのお尻に、問答無用のパパの声。
「そら、反省しなさい」
パチーンッ!!
「・・・いっ!!」
パチンッ!!パチンッ!!パチンッ!!
ベチーンッ!!
「うえぇぇん!!パパぁ!!ごめんなさい!!」
お尻の痛さが二倍になった気がして、いちごショーツの役割の大きさを痛感。
「パパも心配したけどね、お兄ちゃんはパパの何倍も心配したんだよ!」
パァンッ!!
「ああぁんっ!!お兄ちゃ〜ん!!ごめんなさあぁい!!」
「どれだけ心配かけたと思ってるの!」
バチン!!ベチ!!ベチ!!バッチーン!!
ピシャン!!ピシャ!!ピシャ!!ピシャーン!!
うわああぁぁんっっ・・・!!
「・・ふえぇ・ん・・・ごめ・・ごめんなさぃ・・。ちょっとだけの間なら、大丈夫って思ったんだもん・・・ぐすっ・・ぐすん・・・」
「パパもお兄ちゃんも、そのちょっとだけの間でも知佳に心配や不安をかけたことある?
パパの携帯もお兄ちゃんの携帯も、電源切ってたことある?」
「・・・・・・ない」
ひとりでお留守番している時は、パパとお兄ちゃん交互に連絡入るし、いつだってどこにいるかわかる。
当たり前のこと過ぎて、連絡が取れないなんてこと考えたこともなかった。
もしパパとも、お兄ちゃんとも連絡が取れなくなったら・・・。
「知佳、パパやお兄ちゃんがどこにいるかわかんなくなったら、やだぁ!・・・うええぇぇんっ・・・」
すごく怖くなって身体が震えて、ボロボロボロボロ涙が止まらなくなった。
わんわん泣いて、気が付いたらパパのお膝がお仕置きから抱っこに変わってた。
真っ赤なお尻はいちごショーツに隠れてたけど、真っ赤なお目々は隠せないまま。
そしたらお兄ちゃんがもう怒ってない優しいお顔で、あたしの頭を撫でながら言ったの。
「お兄ちゃん本当に心配したんだよ。だけどお兄ちゃんも、ごめんね。
次からはもっと知佳の気持ち考えるから。父さんもお兄ちゃんも、知佳の喜ぶ顔が一番大好きなんだよ」
「それじゃ、行ってくるからね。戸締りちゃんとするんだよ」
「はい。父さん、ありがとう」
「パパ、お仕事に行くの・・・?」
「明日のリニューアル開店に、徹夜でディスプレイの最中なんだ。帰らないとね」
え〜〜〜!?わざわざ知佳のお尻、ペンペンする為だけに帰って来たなんて・・・
信じらんない!!
ひっつき虫みたいにお兄ちゃんにくっついて、出張先に戻るパパをお見送りした。
「父さん、これ。これなら、車運転しながらでも食べられるから」
「おっ、サンキュ、ペロペロキャンディか。疲れたときは甘いものが欲しくなるからね、さすがお兄ちゃんだ」
お兄ちゃんがパパに渡したキャンディ・・・ああっ!!
「お兄ちゃん!それ知佳のだよ!SPK100のオリジナルロリポップキャンディ!!」
「良い子にしてもらったお礼でしょ」
そんなの頼んでないもん!
なんて、まだお尻が痛いから言えないけど。
「知佳、これからはパパのいない時は、お兄ちゃんがパパの代理だからね。
お兄ちゃんは知佳の面倒を見ながら、勉強も家事も一生懸命やってきた。もう何も言うことはないよ」
「父さん・・・」
「二十歳も過ぎて、お兄ちゃんは心身ともに立派な大人だ。お仕置きの判断も、自分の責任の範疇だよ」
ええぇっ?? お兄ちゃんがパパの代理??
お兄ちゃんにもお尻ペンペンされるってこと??
ハンチュウ・・・って何?何だか難しい言葉でよくわかんない。
・・・きっと何かの聞き違いだよね。
お兄ちゃんはあたしのこと、お仕置きなんてしないもん!
パパがお仕事に行った後、お兄ちゃんにそっと聞いてみたの。
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、知佳のことお仕置きなんてしないよね・・・」
「ん?知佳、お兄ちゃんにもペロペロキャンディちょうだい?」
もぉーっ!ペロペロキャンディじゃないってば!
ロリポップキャンデイッ!!
・・・あれっ??はぐらかされた??
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